Creator Interview
ルバ・アブ=ニマ
-Graphic Designer-
最も本質的な部分まで
削ぎ落とされたものを作りたい
ティファニーとナイキのコラボレーション、資生堂や雑誌エルのクリエイティブディレクションなど、
領域に捉われず、むしろ共通性を読み解いて繋げ、新たなストーリーを紡ぎ出す。
グラフィックデザイナーのルバ・アブ=ニマの仕事は、そうやって歴史に新たな文脈を刻んできた。
“メッセージを伝えるためにデザインする”と話すルバの哲学とは。
GA-110のカラーリングやディテールのバリエーションに特徴を見出し、リンクするような色や景色の写真を組み合わせた雑誌の見開きのようなアートワーク。組み合わせの妙で新たなストーリーを紡ぎ出している。ニューヨークのクライスラー・ビルディングや雪山から見えた青空、街中の道路で見かけるような景色など、ルバの日常や旅の景色でありながらも見る人の個人的な記憶にも結びつく。エディトリアルデザインのバックグラウンドを持つルバならではの表現の真骨頂が表れており、各ページに散りばめた全9作品のストーリーをじっくりと読み解いてほしい。
Interview
大切なのは
根底にあるメッセージ
世界トップクラスのカルチャーやアート、ビジネスが集結するニューヨークのマンハッタン島。縦に約20km、横に約4kmほどしかない小さなエリアだからこそ、この場所に身を置き、信念を貫いて活動することがいかに難しいか。グラフィックデザイナーのルバ・アブ=ニマは、ヨーロッパからニューヨークに活動の拠点を移して20年以上が経ち、名だたるグローバルブランドのディレクションを行ってきた。ここ数年で最も鮮烈だったのは、ニューヨークで1837年に生まれた宝飾ブランド「ティファニー」のクリエイティブディレクターを務め、ニューヨークストリートを象徴するスケートボードやBMX、グラフィティなどをイメージビジュアルに組み込み、そしてナイキとのコラボレーションシューズまで生み出したことだろう。タフなニューヨークから世界にメッセージを発信するルバのデザイン哲学を聞いた。
―― ご自身の活動内容を教えてください。
私はニューヨークを拠点に活動しているグラフィックデザイナーです。ファッションやビューティー、そしてカルチャーの分野で多くのデザインを手がけています。本のデザインもしており、ドイツのゲルハルト・シュタイデル氏(世界一美しい本を作る男と称される)とも多くの仕事をしています。私のキャリアは非常に長く、そして一貫してデザインだけを突き詰めてきました。最初は印刷物のデザイナーとしてスタートし、その後は世界がデジタルへと移行する変化も目の当たりにしてきました。雑誌の世界では『エル』のクリエイティブディレクターを務めましたし、資生堂でも数年間日本に住みながら働いていました。ティファニーでもクリエイティブディレクターを務めました。私のキャリアは長く多岐にわたりますが、私が本当に愛し、得意としているのは「デザインすること」そのものです。
―― あなたをそれほど熱中させる「デザイン」とは一体どのようなものですか。
私はデザインのあらゆる側面に深く興味を持っています。人と話をしたり、SNSで発信することもすべてデザインに関する内容です。プロダクトデザインや建築、プリントデザインなど多岐にわたります。特に、「ものがどう作られるのか」というクラフト的アプローチに興味があります。クラフトは人生への向き合い方において非常に重要だと考えているからです。私の家には、厳選したデザイン以外何一つありません。常に最も美しく、最も機能的なものを探し求めています。また、私はイメージやビジュアルのコレクターでもあります。「百聞は一見に如かず」と言いますが、その通りだと思っています。言葉は必要ですが、写真やアート、絵画などは天性の才能から生まれるものであり、そのレベルの才能に触れることは刺激的だからです。そのようなイメージを収集し、学び、経験することは、デザインするためにとても重要です。
ルバが最近オフィスを移した、ニューヨークのクリエイティブシーンを盛り上げているWSAの一室。一棟の高層ビルにデザインやファッション、フード、ウェルネスなど様々なジャンルで活躍するクリエイターが集結し、一室ごとがそれぞれのオフィスやアトリエとなっている。彼らが廊下ですれ違いざまに話した会話からでさえ強力なアイディアが生まれる可能性に満ちた、世界一のクリエイティブビルである。
―― ご自身のデザイン哲学を教えてください。
偉大なデザイン界の巨匠の言葉を引用しますが、「Less is More(少ないことは、より豊かなこと)」です。最も本質的な部分まで削ぎ落とされたものを作りたいのです。アプローチはシンプルでありながら、メッセージは複雑であるようなデザインをすること。これは大きな挑戦であり、私はその挑戦を続けています。『星の王子さま』で有名なフランスの作家のサン=テグジュペリは、「優れたデザインとは、それ以上付け加えるものがないときではなく、それ以上取り去るものがないときのことだ」と言っていますが、まさにその通りだと思います。
―― あなたのデザインの特徴として、意外な組み合わせによって強力な化学反応を生み出すエディトリアル的デザインがあると思います。そのバランス感覚を教えてください。
私の仕事は、単なるグラフィックデザインという基本的なコミュニケーションツールを超えて、メッセージを伝えることにあります。様々なメディアを通じてメッセージを伝え、それらを意味のある方法で、かつ少し破壊的な方法で組み合わせる。求められている様々な要素の中で、適切な比率を見つけ出すことが挑戦です。また、「私の製品を買ってください」というメッセージを、いかに新しい方法で伝え続けるかということも重要だと考えています。
―― クリエイティブなアイディアを生み出すために、どのように時間を過ごすようにしていますか。
今はニューヨークに住んでいますが、この街にはインスピレーションが溢れています。間違いなく世界の文化の中心地です。1950年代初頭からずっとそうであり、誰もが何らかの目的を持って集まってきます。ただ街を歩くだけでも、インスピレーションの方から私を見つけてくれるような感覚です。でも同時に叩きのめされるような厳しい街でもありますが、何度でも立ち上がり、生き抜く方法を見つければ、最高に美しい形で恩返しをしてくれる街でもあります。特に最近オフィスを引っ越してきたWSA(ファッションやアート、フードなど、現在のニューヨーク・カルチャーを牽引し、様々なイベントを発信する施設)は特別です。志を同じくする人たちに囲まれているからです。20年来の知り合いや、会ったばかりの人でも、何らかのクリエイティブな試みに励んでいる人と廊下ですれ違えるのは素晴らしいことです。
01.
ルバのWSAのオフィスの一部。彼女のキャリアの礎には雑誌や本の編集・デザインがあり、今も欠かさず買い集めている。棚の一番上にある作品は、中国の現代美術家アイ・ウェイウェイのメッセージが刻まれた一作。
02.
ルバの自宅の様子。長年来の友人であり仕事仲間の写真家マリオ・ソレンティが写したケイト・モスのプリント作品や、ニューヨークのポップアートの代名詞であるアンディ・ウォーホルの作品、エルメスのオレンジボックスなどが並び、棚の足元には多くのスニーカーが。そのバランス感覚こそルバの真骨頂である。
03.
ルバが着用するG-SHOCKは、盟友であり、今回のTHISTIME magazineにも出演しているプロスケートボーダーのタイショーン・ジョーンズ率いるHardies Hardwareとのコラボレーションモデル。背後に見えるのは、ニューヨークを拠点に活躍する日本人アーティストのショウ・シブヤの作品。友人たちの作品に囲まれ、彼らのメッセージを背負っている。
ルバの自宅に保管された膨大な書籍や図録の資料。アートや建築、写真などジャンルを飛び越え、かつ深い知識として吸収し、自身のクリエイティブに反映している。
―― タイムレスなものを作るためには何が必要だと考えますか。
“共鳴し続けることができる”ことだと思います。必ずしも流行的である必要はありません。流行は社会を動かすために必要なものではありますが、タイムレスなものとは、今日のメッセージが10年後も価値を持ち続けているということです。見た目が美しいことにも価値があることを願いますが、それ以上に“根底にあるメッセージ”が重要です。私はクライアントワークであっても、そのクライアントの根底にある哲学を伝えることを常に意識しています。意味のあるメッセージを届けることが私のデザインの挑戦なのです。
―― 日本に約2年間住んでいらっしゃいましたが、日本の文化や美学から学んだことがあれば教えてください。
ヨーロッパとアメリカにはある種の均質性がありますが、日本人が持つ精神的で哲学的な、クラフトに基づいた独自の視点は世界のどこにもないものでした。「無駄にしないためのものづくり」というクラフト的持続性の重要さを学びました。日本には数百年、数千年も続くように作られるものさえあります。目的と意味を持って作られるものはタイムレスです。日本の資生堂で働いていた時、その製品を市場に出す価値があるのか、無意味なものではないかをチームに納得させるために膨大な時間が必要でした。意味の重要性、そして「美」に対する視点も、日本の定義は世界のほかの場所とは全く異なります。その美の定義は、表面的なものではなく、より深い意味を持つものであり、今でも私の仕事の基準になっています。
―― インスタグラムの投稿にもよく腕時計が登場しますね。あなたにとって腕時計はどのような存在ですか。
腕時計にはクラフトが宿っています。ここ数十年で、時計は大きなステータスシンボルになりました。かつては単なる実用品でしたが、今ではジュエリーであり、知性やクールさの証しとされています。私はデザインの中でも特にインダストリアルデザインが好きで、時計は車やコーヒーメーカーと同じカテゴリーだと思っています。ディーター・ラムス(ドイツ出身のインダストリアルデザイナー)の仕事が証明しているように、優れたデザインは時代を超越します。私にとって腕時計は、デザインにおいて何が重要かということをいつも思い出させます。腕時計をデザインし製作するには、多くのプロセスや部品を必要とし、それは車やオートクチュールのドレスを作るのと同じレベルの仕事です。そしてそれらは決して使い捨てではありません。大切に扱えば一生持ち続けることができる、持続性のあるものなのです。
――「タフネス」とは、あなたにとってどのような意味を持ちますか。
ニューヨークという街で生きることですね(笑)。非常にタフでなければなりません。本当に、本当に強くあらねばなりません。人生という時間を過ごす上で泣いてはいられないのです。
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ルバのWSAのオフィスの一部。彼女のキャリアの礎には雑誌や本の編集・デザインがあり、今も欠かさず買い集めている。棚の一番上にある作品は、中国の現代美術家アイ・ウェイウェイのメッセージが刻まれた一作。
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ルバの自宅の様子。長年来の友人であり仕事仲間の写真家マリオ・ソレンティが写したケイト・モスのプリント作品や、ニューヨークのポップアートの代名詞であるアンディ・ウォーホルの作品、エルメスのオレンジボックスなどが並び、棚の足元には多くのスニーカーが。そのバランス感覚こそルバの真骨頂である。
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ルバが着用するG-SHOCKは、盟友であり、今回のTHISTIME magazineにも出演しているプロスケートボーダーのタイショーン・ジョーンズ率いるHardies Hardwareとのコラボレーションモデル。背後に見えるのは、ニューヨークを拠点に活躍する日本人アーティストのショウ・シブヤの作品。友人たちの作品に囲まれ、彼らのメッセージを背負っている。
ルバの自宅に保管された膨大な書籍や図録の資料。アートや建築、写真などジャンルを飛び越え、かつ深い知識として吸収し、自身のクリエイティブに反映している。
ブルーのメルセデスベンツ 380SLに、ブルーのコート、そしてルバのインスタグラムのアイコンでもありブルーのワンピースがアイコンであるスヌーピーのルーシーの人形など、自身が好きなものを突き詰め、一貫して表現しているスタイルには、「最も本質的な部分まで削ぎ落とされたものを作りたい」というルバのデザイン哲学が端的に表れている。
Profile.
ルバ・アブ=ニマ
ヨルダン・ハシミテ王国の首都、アンマン出身。印刷物のデザイナーからキャリアが始まり、化粧品メーカーのレブロンや資生堂、雑誌エル、ティファニーのクリエイティブディレクターなどを歴任。ファッションやビューティーなど幅広いカルチャーに造詣が深く、それらを組み合わせた化学反応的なディレクションを特徴とする。
Instagram. @ruba
Photography. Bladimir Corniel
Interview. Shimpei Nakagawa
Edit & Text. Yutaro Okamoto_THOUSAND
THISTIME MAGAZINE
Creator Interview