Creator Interview
ラムダン・トゥアミ
-Artistic Director-
ラディカルで遊び心に溢れる
稀代のアイディアメーカー
ブランディングやデザイン、ホテル経営、雑誌編集、活版印刷事業。
ラムダン・トゥアミのアイディアはジャンルを問わず溢れ続け、世の中に驚きと楽しさをいつも与えてくれる。
無尽蔵な彼のアイディアとエネルギーはどのように生まれるのか。
それは「ラディカルでいること」「子どものように楽しむこと」のようだ。
GA-2100をテーマにラムダンが制作したアートワーク。日本生まれのG-SHOCKを、日本が世界に誇り、フランスでも大人気の文化である「マンガ」をテーマに表現している。誌面だと伝わりづらいが、アートワークをラムダンが手がける活版印刷事業で活版に落とし込んで印刷し、スキャンしたデータを誌面に改めて印刷している。マンガの主人公はラムダンがモチーフで、身につけるサングラスや洋服、シューズは、彼が手がけるファッションブランド「ディ・ドライベーグ」のアイテムになっている。
Interview
とにかく子どものように楽しむ
現在最もホットなクリエイティブディレクターの1人と呼べるのが、ラムダン・トゥアミだ。その手腕が注目を集めるきっかけとなったのは、パリの老舗美容専門店“オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー”を華々しいリブランディングに導いたことにある。その後は活動の幅を広げ、マウンテンカルチャーをテーマにしたコンテクストストア“WORDS, SOUNDS, COLORS&SHAPES(ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプス)”をパリと東京にオープン。はたまたスイスの山岳地帯にあったホテルを買収してリニューアルしたり、山をテーマにした雑誌“USELESS FIGHTERS (ユースレス ファイターズ)”を発行。最近は活版印刷に力を入れている。毎秒のようにアイディアが閃き、世界中で手がけるさまざまなプロジェクトに電話からも指示を出し続けるラムダン。そのクリエイティビティの源を聞いた。
――ブランドプロデュースやインテリアデザイン、洋服作りなどさまざまな活動をされていますが、自己紹介を求めれられたときにどう答えていますか。
「仕事」や「肩書き」は僕にとって曖昧で複雑なんです。ホテル ドライベーグ(ラムダンが経営するホテル)にいるときはホテルのオーナーですし、ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスにいるときはファッションやショップのデザイナー。スタジオにいるときはグラフィクデザイナーですし、カフェにいるときはカフェのオーナーです。パーティーにいるときはパーティーマンですよ。僕は何者でもなくて、ただの自転車好きな1人の男です。そのときにいる場所が“私”を形成しているだけで、なにか特定の仕事を持っているとは思っていないんです。
――常に斬新なアイディアを生み出していらっしゃいますが、どのようにしてアイディアが湧いてくるのでしょうか。
たとえば今いるワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプス 日本1号店の内装デザインは、この建物を内見しに来て5分で思いつきました。高い天井と大きな窓をベースに、アルテックのスピーカーを宙吊りにしたディスプレイを置くとかっこいいと直感が閃き、あとは実行するだけです。エネルギーを持って実行するだけですよ。アイディアとプレッシャーがミックスされたエネルギーこそが力を持ちます。プレッシャーという刺激が人生にエネルギーを与えてくれるのです。
――ラムダンさんは常に喋り続け、動き回っていらっしゃいますね。エネルギーの塊のようです。
子どものように生活することが好きなんです。いつもハッピーで、ちょっとだけクレイジーでいたい。僕は現在50歳ですが、とてもハッピーな子どもなんです。子どものエネルギーは最高ですよ。私の子どもたちは、私は頭がおかしいと思っています(笑)。でも22歳になった娘が最近私に言ったのは、「お父さんが言っていたことは正しかったんだと気づいた。一見クレイジーな話やアイディアでも、どれも正しかったとわかってきた」と。だから私は80歳になっても子どもでいたいですね。歳を取ったら人生はつまらなくなってしまいますよ。だから誰もが生涯子どものままでいなければいけない。死んだら元も子もないので、自分の人生を深刻に考える時間なんてもったいない。とにかく子どものように楽しむことです。
――グラフィック書籍やカウンターカルチャーマガジンを専門に扱う書店「ラディカル メディア アーカイブ」も運営されていますが、「ラディカル(過激な。急進的な。)」はラムダンさんの活動におけるキーワードかと思います。あなたにとってどのような意味を持つ言葉でしょうか?
誰もがラディカルでいなければならないと思っています。誰もが自分のアイディアを最大限実行しなければいけません。コーヒーが好きなら、最高のコーヒーを追い求めて飲む。タクシードライバーをしているなら、正しい車を選び、最高のタクシードライバーにならなければならない。それが人生です。今の世の中は情報が多過ぎます。だからこそ自分が一番得意なことを見つける必要があります。それこそが“ラディカル”であり、人生はいつも急進的でなければなりません。何も僕が特別なのではなく、誰もがそうなれますよ。
――とにかく集中することが大切なんですね。
そうだね!心を込めて、エネルギッシュにベストを尽くすことが大切です。そして同時に、世の中のすべてのことに目を向ける必要があります。私は日々たくさんの本を読んで勉強しています。今日のインタビューが始まる直前まではポッドキャストを聞いて情報を集めていました。私の脳はノンストップに学び続けていて、容量に上限はないと思っています。でも昔の私の脳は42メガバイトほどしか容量がありませんでした。でも学ぶことを続けたおかげで、今では3,000テラバイトはあると感じますし、まだまだ新しいことを学びたいんです。
――あなたが作るお店やものは突き詰められたクオリティであり、唯一無二のオリジナリティに溢れています。未来に残るものづくりをするためには、どのようなことを心がける必要がありますか?
常に最高のクオリティを出さなければいけません。良い製品とは、良いデザイン、良い品質、良い店舗が必要です。良い品質があれば、自然と良いストーリーが生まれます。なぜG-SHOCKは世界中でこれほど人気があると思いますか?それは品質が良いからですよ。最高の品質であり、そこから生まれたストーリーがある。それこそがG-SHOCKの魅力ですよ。決して壊れないタフな時計なんて素晴らしいじゃないですか。これこそが“本物”ですよ。
――次はどのようなことに挑戦しようと思っていますか?
パリから東京まで車で旅しようと思っています。これまでパリと東京を300回は行き来してきました。でもいつも飛行機だったので、次は地上からの景色を見たい。道中でロシアやカザフスタン、トルコ、イラン、韓国などに寄り、現地の文化や大好きな山を体感したいんです。車はメルセデス・ベンツのG-クラスに乗り、腕元にはG-SHOCKを付ける。「G」を名前にもつものにはグッドクオリティが多いです。
01.
ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスの中目黒店の様子。この空間を内見して5分で内装デザインをラムダンは閃いたという。高い天井と大きな窓から差し込む陽の光、宙吊りになったアルテックのスピーカー、ブルーやメタルのディスプレイなど、唯一無二なアイディアの組み合わせが光る。
02.
ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスのパリ店の様子。マレ地区にある歴史的建造物を生かしたクラシックな内装や家具だからこそ、ディ・ドライベーグのアイテムの遊びやアイコニックさが際立っている。地下はラディカル メディア アーカイブのスペースになっており、ラムダンがコレクションするポスターや書物が展示されている。
ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスの中目黒店の様子。この空間を内見して5分で内装デザインをラムダンは閃いたという。高い天井と大きな窓から差し込む陽の光、宙吊りになったアルテックのスピーカー、ブルーやメタルのディスプレイなど、唯一無二なアイディアの組み合わせが光る。
ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスのパリ店の様子。マレ地区にある歴史的建造物を生かしたクラシックな内装や家具だからこそ、ディ・ドライベーグのアイテムの遊びやアイコニックさが際立っている。地下はラディカル メディア アーカイブのスペースになっており、ラムダンがコレクションするポスターや書物が展示されている。
ラムダンが最近特に力を入れている活版印刷プロジェクト。ヨーロッパではおそらくこのアトリエにしか残っていないという1940年代の貴重な印刷機とその印刷物の美しさにラムダンは心を奪われ、アトリエを受け継いだようだ。オフィシーヌ ユニヴェルセル ビュリーやワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスのショッパーをはじめとし、ラムダンの生み出す活版印刷の美しさを求めて世界中から注文の依頼が絶えない。
ラムダンが最近特に力を入れている活版印刷プロジェクト。ヨーロッパではおそらくこのアトリエにしか残っていないという1940年代の貴重な印刷機とその印刷物の美しさにラムダンは心を奪われ、アトリエを受け継いだようだ。オフィシーヌ ユニヴェルセル ビュリーやワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプスのショッパーをはじめとし、ラムダンの生み出す活版印刷の美しさを求めて世界中から注文の依頼が絶えない。
ラムダンが手に取ったG-SHOCKはフルメタルモデルのGM-B2100PC。プラスチック製品を身につけないという理由もあるが、タフなイメージが強化された見た目やグラデーションの効いたダイアルがお気に入りのようだ。腰のベルトに巻き付けるのがラムダン流であり、「腕時計を腕に着けない」というスタイルに彼らしさが表れている。自転車が大好きなラムダンは、パリでも東京でも自転車が移動のベースにある。「では次の予定があるから、そろそろ行くね。また世界のどこかで会おう」と颯爽と走り去っていった。
Profile.
ラムダン・トゥアミ/Ramdane Touhami
クリエイティブディレクター。オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーを成功に導いたことで知られる現在は、クリエイティブ エージェンシー “アート ルシェルシュ インダストリー”の代表や、スイスのホテル“ドライベーグ ホテル”のオーナー、パリと東京にはセレクトショップ “ワーズ サウンズ カラーズ アンド シェイプス”をオープンさせるなど数多くの事業を手掛ける。
Instagram. @ramdanetouhami
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