Creator Interview
T図案
-Printmaker-
緻密なディテールに宿る
日本のアートクラフト
“理由も目的も無く、
無条件に美しい形がある”をテーマに、
手彫りのハンコを用いてポップでシュールな
作品を次々と生み出す、版画家のT図案。
長きにわたり、G-SHOCKのファンであるという
彼が表現するDW-5000Rは、
15個もの版を重ねた緻密な日本らしいアート。
それはまさに、世界に誇るメイドインジャパンの
クラフツマンシップを体現したものだ。
彼をずっと虜にしてきたアートとは何か。
根底にあるマインドに迫り、そのスタイルを紐解いていく。

T図案が制作したDW-5000Rのアート作品。特徴的なレンガモチーフのデザイン、PROTECTIONやWATER RESISTのタイポグラフィなど、細部のディテールまで版画により見事に表現されている。実機の脇に添えた幾何学模様の光と太陽には、G-SHOCKは日本の象徴という想いが込められている。
Interview
夢中になれれば
それは価値あるアート
東京のデザイン学校を経て、シルクスクリーンの分野からキャリアをスタートさせたT図案。広告など大きなビジョンで活動してきたなか、人が身近に目を凝らして、楽しめる作品を作りたいという想いが芽生え、10代からコツコツ制作してきた版画を本格的にスタートさせたという。そもそもなぜ彼は版画の分野に魅せられたのだろうか。そんな問いからインタビューははじまった。
―― T図案さんが版画を本格的にはじめたきっかけを教えてください。
学生の頃、1910年~1930年代のロシア・アヴァンギャルドのポスターをはじめて見て強烈なインパクトを受けたんです。後々調べてみるとそれらは版画で作られていることを知り、とても驚きました。紙特有の質感、インクの擦れなど手彫り版画ならではの風合いが魅力的で。サイズ感は大きなものではなく、身近な手のひらサイズのものを作りたい。そんな思いから版画を本格的に始めていきました。
―― SNSでは「理由も目的も無く、無条件に美しい形があります。それを探す作業がわたしの制作活動です」という紹介文を公開されていますが、作品のインスピレーション源について教えてください。
もともと学生時代から誰かに何かを伝えたいとか、評価してもらいたいという気持ちが、ほかの美術に関わる人たちよりも少なかったと思います。そんな性格なので、人に作品を見せないという時期も10年近くありました(笑)。僕の作品には誰かに何かを伝えたいというメッセージはないんです。日々の生活のなかで純粋に美しいと思ったものから違和感を感じたものまで、モチーフは様々です。それを絵画ではなくラバーの版で作っていくことに醍醐味を感じています。
―― DW-5000Rをモチーフにアートワークを作っていただきましたが、どんな思いで作られたのでしょうか?
G-SHOCKは日本から発信する世界的なブランド。海外へ渡航した際も、身につけている人を見ると何故か嬉しくなるんですね。日本の誇りのような意味合いも込めて、光や太陽などポジティブな幾何学模様を時計の周りに入れました。また、フェイスは捺し重ねる工程を多くして、特徴的なレンガのデザインと文字が上手く重なるように心掛けました。版画は細かい作業が多いのですが、今回は小さな腕時計ということもあり、いつも以上にディテールにこだわりました。そのほかG-SHOCKの「タフ」というイメージを握り拳などで表現しています。


版画は、描く、彫る、捺す。大きく分けて3つの工程がある。特に捺す工程では神経を研ぎ澄まして、丁寧に重ねていく。紙を傷つけずインクが付いても気にならないG-SHOCKは、作品作りにも重宝しているという。

DW-5000Rの絵を描いたのち、15個のパーツに分解して版を制作した。日本のクラフツマンシップを感じさせ、ディテールへのこだわりが見て取れる。
―― G-SHOCKを長年着用していると聞きました。どんな部分に惹かれているのでしょうか?
制作中でもG-SHOCKを着用することは多いです。たとえインクが付いてもそれはそれで絵になる時計ですし、ハンコを捺す時もベルトがウレタン素材なので紙を傷つけない。高級時計だとそれが難しいですよね。時計という機能もありながら、制作に没頭できるのが魅力です。
―― 使用する道具やモノ選びの基準について教えてください。
彫る時の道具は基本的にデザインカッターで、大きな面は彫刻刀を使うことが多いです。インクは透明度に優れたツキネコ社のバーサクラフトというものを使用しています。捺し重ねる作業において透明度はとても重要なんですよ。日本ブランドは他国に比べてインクも紙のテクスチャーも豊富。海外の版画家でも日本ブランドを使用する人が多いんです。日本は版画を制作するのに適した環境だと思います。また、G-SHOCKのように、機能が根底にありながらヴィジュアルとしても同じ価値として成立しているモノに惹かれます。壊れない時計という素晴らしい機能がありながらも、デザインとしての良さがあるのは、モノ選びで基準となるポイントですね。
―― アートにずっと夢中でいられる理由は何だと思いますか?
アートは自分が一番楽しめるものなんです。今年初めて子ども向けのワークショップを開きましたが、僕のスタイルを継承したいという気持ちは全くなく、「アートはもっと自分のためになるものだよ」ということを伝えたかったからです。たとえばピアノを弾く人もそうだと思うんですが、何かを伝えるというその前に、まず自身が一番楽しんでいる。ほかの誰かではなく自分のため。そんな感覚です。版画は描く、彫る、捺すという大きく分けて3つの工程があります。それがすべて揃って作品ですが、どれか1つの工程だけでも夢中になって自分の心を癒やすことができれば、それは価値あるアートだと思うんですね。作品を通して伝えたいことはないと言いましたが、アートを作る過程の喜びだけは、たくさんの人に伝えていけたら良いなと思いますね。


鶴のフォルム的な美しさと生態に魅了され制作をスタート。大空へ飛び立とうとする様子や太陽の光、日の丸など日本の素晴らしさをイメージして表現した初期作品。

プリントTシャツとしても販売した100円ライターとマッチの火にまつわる作品。ピンク、イエロー、ブルーの色彩が調和して重なるように透明度の高いインクを使用した。

都心の住宅街にある空き家マンションに興味を抱いたことから、制作された1枚。ゴーストをはじめとしたキャラクターを随所に潜ませた、彼なりの遊び心が感じられる。
01
鶴のフォルム的な美しさと生態に魅了され制作をスタート。大空へ飛び立とうとする様子や太陽の光、日の丸など日本の素晴らしさをイメージして表現した初期作品。
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プリントTシャツとしても販売した100円ライターとマッチの火にまつわる作品。ピンク、イエロー、ブルーの色彩が調和して重なるように透明度の高いインクを使用した。
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都心の住宅街にある空き家マンションに興味を抱いたことから、制作された1枚。ゴーストをはじめとしたキャラクターを随所に潜ませた、彼なりの遊び心が感じられる。

長野県生まれのT図案が、幼い頃から日常的によく好んで食べるという蕎麦がモチーフ。麺が重なり合う複雑な表情と、日本独自の整然とした気品の文化を捉えた作品。

生命力や生き物をイメージした作品。楕円の版を回転させながら捺し、薄くなったインクをあえて何度も繰り返し使用することで、奥行きとムラ感のある独特な表情を作った。

趣味で写真を撮っていた20代の頃に制作したカメラモチーフの作品。買いたいけれど買えなかった憧れのカメラを描いたもので、当時の感情の揺れも表現されている。
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長野県生まれのT図案が、幼い頃から日常的によく好んで食べるという蕎麦がモチーフ。麺が重なり合う複雑な表情と、日本独自の整然とした気品の文化を捉えた作品。
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生命力や生き物をイメージした作品。楕円の版を回転させながら捺し、薄くなったインクをあえて何度も繰り返し使用することで、奥行きとムラ感のある独特な表情を作った。
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趣味で写真を撮っていた20代の頃に制作したカメラモチーフの作品。買いたいけれど買えなかった憧れのカメラを描いたもので、当時の感情の揺れも表現されている。

1800年代に潜水活動を行うダイバーたちが身につけていた潜水服をベースにしたもの。海中でまとわりつく魚やタコをパターンで配置して、妄想と現実の妙を捉えた。

立派な作りの石灯篭はなぜあるのか? という疑問から生まれた作品。夜な夜なUFOが来て光を与えているかもしれない、という彼の独創的なストーリーも面白い。
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1800年代に潜水活動を行うダイバーたちが身につけていた潜水服をベースにしたもの。海中でまとわりつく魚やタコをパターンで配置して、妄想と現実の妙を捉えた。
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立派な作りの石灯篭はなぜあるのか? という疑問から生まれた作品。夜な夜なUFOが来て光を与えているかもしれない、という彼の独創的なストーリーも面白い。
Profile.
T図案/T-ZUAN
ゴム版にカッターで彫られたポップなアートで海外からの注目も高まっている版画家。版を重ねて表現された独特の色使いもポイントで、個展も多数開催している。モチーフはスニーカー、カメラ、ライターなど身近なものが多い。作品をTシャツにプリントし、販売も行う。
Instagram. @t_zuan0321
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