7Stars Design堀内俊哉と巡る、 “G-SHOCKと過ごした90年代と今”

90年代、裏原宿から生まれたストリートカルチャーは、日本中を巻き込む巨大なムーブメントへと発展した。その舞台の裏側には、常にデザインオフィス「7Stars Design」のアートワークがあった。発起人でありデザイナーの堀内俊哉氏は、インディペンデントな国内ブランドや音楽レーベルが成長していく様子を、現場の最前線で見つめてきた人物だ。そんな堀内氏にとって、G-SHOCKとはどのような存在なのだろうか。
▼7Stars Designとは?
岩田圭市氏とともに立ち上げたデザインオフィス。これまでに初期の「UNDERCOVER」や「A BATHING APE」など、数多くの裏原ブランドに加え、「SUPREME」や「NIKE SB」など、ストリートカルチャーを象徴する存在へデザイン提供やディレクションをおこなってきた。
そんな7Stars Designの30周年を記念して開催されたアーカイブ展「DESIGNED FOR THE CELEBRATION」の会場で、G-SHOCKと堀内氏にまつわる貴重な話をうかがった。

Contents
Topic 1
DW-6900からイメージが一変!
Topic 2
最大の魅力は伝わるデザインにある
Topic 3
今狙っているのは2100シリーズ!
Topic 4
時計好きの欲を満たしてくれる存在
Topic 1
DW-6900からイメージが一変!
ーー7Stars Designは平成7年7月7日に誕生し、今年で30周年を迎えました。堀内さんは90年代から活躍してきたキャリアのなかでストリートカルチャーと密接な関係を築いてきましたが、当時のG-SHOCKもまたファッションや音楽、スケートボードなどストリートのカルチャーとともに成長していった背景を持ちます。当時の裏原宿カルチャーの中にいた人たちの間でG-SHOCKはどのように映っていましたか?
堀内俊哉(以下:堀内):今でこそひと目見ればすぐにわかるほど認知を得たG-SHOCKですが、90年代に入ってからしばらくの間は“CASIOの時計”の中の一つという認識だったと思います。自分を含め、データバンクを着けている人もまだ多かったですしね。当時の原宿は言うなればインディーズの集まりで、そんな僕たちの前に現れたG-SHOCKはすごくメジャー感があるというか、とにかく拓けている存在というふうに受け取っていた気がします。

ーーでは、堀内さんご自身とG-SHOCKの距離が近づいたきっかけについて教えてください。
堀内:7Stars Designを設立した頃にはすでにG-SHOCKを持っていて、そのきっかけは90年代前半に友達が着けていた黄色いG-SHOCKだったような。スピードモデルと呼ばれるDW-5600やスティングモデルと呼ばれるDW-5700など、話題性のあるG-SHOCKの印象も強いですね。
特に記憶に残っているのは、1997年に登場したステューシーとダブルネームのDW-6900。そこから原宿界隈のみならずあらゆる人がG-SHOCKに注目するようになったんだと思います。僕が身に着けていた当時の写真がこちらですね。

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ーーこれはどういったシチュエーションでしょうか?
堀内:元々NOWHERE(※1993年にNIGO®氏と高橋盾氏が原宿にオープンした裏原宿シーンを象徴する伝説的ショップ)があった場所にできたお店の壁に、 海外アーティストのジミー・Cがミューラルを描いたときの写真です。
彼は『KUSTOM KULTURE』という書籍の表紙に作品が使われたことでも知られる有名アーティストで、僕も当時からペイントをやっていたのでお手伝い要員として呼んでくれて。ミューラルが完成したときに「サインを入れていいよ」と言われたのでちゃっかりサインを書いているところです。
ーー貴重なお写真をありがとうございます。おそらくこの頃(1997年)に、藤原ヒロシさんが手がけていたELECTRIC COTTAGEと7Stars Designによるデータバンクが発売されたと思いますが、当時の心境はどのようなものでしたか?

堀内:これが僕のカシオさんとの初仕事。依頼されたときの気持ちを正直に言うと「本当に僕がやっていいの? 」でした。データバンクもG-SHOCKもすでに完成されたデザインだと思っていましたから。なので、できる限りシンプルなピンストライプ柄を使用して、文字板のデザインも足すのではなく引くことで成立させたのがこのモデルになります。
ーーもう30年近く前のデザインですが、今見ても色あせることなく、本当にかっこいいですね。
堀内:G-SHOCKとの仕事で特に印象に残っているのは、G-SHOCKが2015年に開催したイベントのREAL TOUGHNESSでトロフィーをはじめとしたキービジュアルのデザインやアワードのG-SHOCKのグラフィックなどを担当したことです。スケートやBMXといったカルチャーをサポートするG-SHOCKのイベントに関わることができたのは、スケーターでもある自分にとって、大変嬉しく、特別な経験でしたね。

ーーG-SHOCKとの関係が、本当に深く長く続いていることが伝わってきます。ちなみにこれまでに身に着けてきたモデルの中で思い入れが強いものはありますか?
堀内:やはり僕ら世代にとって象徴的なのはDW-5600ですかね。あとはスケルトンボディのモデルもすごく気に入っていて、当時よく身に着けていました。どちらのモデルも思い入れがあるだけじゃなくて、今でも変わらず使い続けている、自分にとってまさに“定番”と呼べる存在だと思います。
――本日はそれらモデルの進化型をお持ちしていますので、インタビュー後半でまたゆっくりお話をお聞かせください。
Topic 2
最大の魅力は伝わるデザインにある
ーー堀内さんは1995年に7Stars Designを立ち上げていますが、そもそもなぜグラフィックデザインに興味を持つようになったんですか?
堀内:興味を持ったのはスケートボードのグラフィックからですが、実は自分の父親がグラフィックデザインの仕事をしていて。高校生ぐらいから仕事を手伝って小遣いをもらっていました。80年代半ばの話なので、まだMacなんてものはなくて100%アナログでしたけど。

ーーなるほど! 日頃からグラフィックデザインに触れる環境で育ったんですね。その頃からご自身でデザインの道を目指すように?
堀内:その当時はまだそれほど深くは考えていなくて、スケートボードばっかりしていました。でも、当時一緒に滑っていた(藤原)ヒロシさんがMajor Forceを運営しているファイルレコードに連れていってくれて、そこから遊びに行かせてもらうようになったんです。
その流れでファイルレコードで働くようになり、最初の頃は荷物運びからPV撮影の助監督までなんでもやりましたね。デザインの初仕事は、高木完さんとスチャダラパーがやっていたイベント『HOME BASS(ホームベース)』のポスターでした。
ーー7Star Designがこれまで表現の場を広げてきたきっかけにスケートボードがあるのは実に共感できるエピソードです。G-SHOCKにもアメリカのスケーターたちが身に着けたことで注目度が高まったというストーリーがあるので。
堀内:スケーターにとってタフであることは重要ですから親和性は高いですよね。僕もスケートボードをするのでG-SHOCKの魅力の一つである頑丈さは実感してきました。ついこの前も、スケートで思いっきり転んだんですが、ボディに擦り傷が少し付いただけで、機能面は全く問題ありませんでした。G-SHOCKより自分のボディへのダメージのほうが大きかったです(笑)。
ーーそれはまさにスケーターならではのリアルな実体験ですね。そんな堀内さんはレコード会社での勤務を経て独立、7Star Designを設立したわけですが、デザイナー視点で見たときにG-SHOCKはどんな魅力があるかもお聞きしたいです。
堀内:それぞれのモデルに個性がありますけど、すべてに対して言える魅力はデザインが機能に紐づいている点ではないでしょうか。僕はG-SHOCKの文字板がすごく好きで、秀逸なデザインだなといつ見ても感心してしまうんです。
その理由は、僕の中で“グラフィックデザインは伝達メディアであること”を重要視しているからだと思います。アート性が高いグラフィックデザインはたしかにかっこいいかもしれませんが、その一方で意図を汲み取るのが難しくなり、大勢には伝わりにくくなります。
その点、G-SHOCKは正確な時刻や日時、搭載されたさまざまな機能をデザインによってユーザーに分かりやすく伝えていますよね。だから世界中の人々からこれだけ愛され続けているんだと思います。
ーーほとんどの人が時刻をすぐに知りたくて時計を着けている中、大切なことがうまく伝わらなければ意味がありませんよね。
堀内:そうなんですよ。例えばポスターデザインの場合、イベントのタイトルがあって、どんなイベント内容か、いつどこで行われるかなど、さまざまな情報が記載されています。
その一つ一つのタイポグラフィーには、時計と同じく果たすべき機能があって。それらをできるだけ分かりやすく視覚化するために、どんな配置でどんな配色にするかなどを考え、細かい文字間まで丁寧にこだわる、というのが僕がやっているグラフィックデザインになります。

ーー堀内さんがデザイナーとして今までなにを大切にしてきたのかが伝わってくるお話です。
堀内:ただ、グラフィックデザインを抜きにしても、G-SHOCKの形状そのものが自分のタイプなんですよね。昔からダイバーズウィッチやミリタリーウォッチが好きだったので、こういったベルト一つとってもグッとくるというか。G-SHOCKってファンの心を本当に分かっていますよね。
ーー今日お持ちいただいた堀内さん私物のG-SHOCKの中に、ベルトをカスタマイズされたDW-5600がありますね。

堀内:はい。通称レッドアイと呼ばれるモデルなんですが、すべてG-SHOCKの純正パーツを使ってカスタムしていて、こうするとちょっと雰囲気が変わって新鮮な着け心地が味わえます。
ーー新鮮さでいうと、G-SHOCKが多くの人に受け入れられた理由の一つに、カラーリングの斬新さがあります。黄色や赤といった、それまでの時計のイメージを覆すポップな色使いが当時のストリートで鮮明に映ったのだと思います。ところで堀内さんは、文字板がブラックのデザインが特にお気に入りのようですね。
堀内:真っ黒な文字板のデザインは、近年のG-SHOCKならではの魅力ですよね。最初に見たときはちょっと違和感があったんですが、今ではすっかり気に入っています。歳を重ねるにつれて好みも変わってきたのかもしれませんね。
Topic 3
今狙っているのは2100シリーズ!
ーー堀内さんにお持ちいただいた時計の中にG-SHOCKではないカシオ製品がありますが、こちらはいつ頃から使われているのでしょうか?

堀内:30年ぐらい前に購入したものですが今は自分で使っておらず、大学に通う息子に譲った時計になります。若い世代でチープカシオを着けている子もけっこういて、息子の友達もこれを見て「そのカシオなに?」と聞いてくるそうですよ。
ーーカシオの時計が次の世代にも大切にされていると聞くと、なんだか嬉しくなりますね。
堀内:実はこの時計、電池交換こそしたものの、一度も修理したことがなくて。でも今もちゃんと動いているんです。それって本当にすごいことですよね。 G-SHOCK はもちろん、カシオ製品の堅牢なつくりに改めて驚かされました。
それにデザインも、クラシックだけどどこか新しい感じもして。この時計には、カシオの歴史や感性を感じます。
ーー最近よく着けている一本はどちらですか?
堀内:バウンティーハンターの30周年記念で関係者向けに作られたG-SHOCKですね。これが手元にあるのが嬉しいし、デザインがコミュニケーションツールとして役に立つので自分の名刺代わりにもなっています。
ーーバウンティーハンターのブランドロゴを作ったのは他でもない7Stars Designですしね。こちらはデジタルではなくアナログになりますが、そのあたりに対してのこだわりは?
堀内:G-SHOCKはデジタルの印象が世間的に強いし、僕自身もそこが強みだとは思いつつ、実は昔から3針時計も好きなんですよね。今はバウンティーハンターの2300シリーズがあるのでアナログウォッチ欲は少し収まりましたけど、2100シリーズのメタルはずっと欲しいモデルの一つです。
2100シリーズならではの八角形にしかないデザインのバランス感も好きなんですよね。
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ーー少し話はそれますが、7Stars Designが手がけてきたアートワークは、どれも個性豊かで、表現の幅広さが際立っています。今日お話を伺って、あらためてその背景には堀内さんの柔軟な発想があるのだと感じました。
堀内:オファーをいただいた仕事に対してしっかりと応えたいという意識が強くあったおかげで、結果的に一つの型にハマらずに済んだということはあるかもしれないです。それに7Stars Designは僕だけじゃなくチームでやってきたので、その時々の個性が表れていたんだと思います。

ーーそんな7Stars Designですが、30周年を迎えた令和7年7月7日で活動を休止することを発表されました。今後の動きはどうなるのでしょうか?
堀内:デザインの仕事自体はこれからも続けていきますが、この節目に一度、自分の考えを整理する時間を持ちたいと思ったんです。コロナ禍を経て社会全体のあり方が大きく変わったように、7Stars Designも、以前のようなチーム体制から、メンバーそれぞれが個々に動く形へと自然にシフトしていきました。
そうした中で、「この時代において、看板を掲げ続ける意味ってなんだろう?」という問いも生まれてきて。だからこそ、これからは無理に何かを広げようとするのではなく、自分の目の届く範囲で、きちんと手を動かしていくことに集中していきたいと思っています。
決してネガティブな意味ではなく、これは僕たち2人が次のステップに進むための前向きな選択。解散というよりも、それぞれが新しいステージに踏み出すタイミングだった、という感覚に近いですね。
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Topic 4
時計好きの欲を満たしてくれる存在
ーー今日は堀内さんにお勧めしたいモデルをいくつかお持ちしました。まずはこちらのDW-5600UE-1JFになります。G-SHOCKの定番モデルだったDW-5600E-1にLEDバックライトを搭載し電池寿命も約2年から5年に伸びたアップデートモデルです。

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堀内:懐かしいなぁ。これは僕がG-SHOCKの存在をより深く知ることになった、いわゆるスピードモデルですね。5000シリーズがG-SHOCKの原点であることを後から知った僕にとって、DW-5600はこれぞG-SHOCKという感覚があります。
ーー続いてこちらは、初代G-SHOCKの象徴的な3色を再現したDW-5600RL-1JFです。

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堀内:多色使いなのにどこも喧嘩しないバランスの良さといい、改めて見ても本当に優れたグラフィックデザインです。たしかディテールはオリジナルのDW-5000と少し違うんですよね?
ーーさすがですね! おっしゃる通り、DW-5000はフェイスのレンガパターン、裏蓋のスクリューバックなどが特徴です。ちなみに初代G-SHOCKを完全復刻した DW-5000R-1AJFというモデルもリリースされています。
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堀内:たしか、DW-5000R-1AJFは日本製でしたよね。山形カシオですか?
ーー本当にお詳しい。その通りです!
堀内:先程お話ししたREAL TOUGHNESSの仕事をさせていただいたタイミングで猛勉強しましたから(笑)。G-SHOCKって一見同じようで、よく見ると実は違うところもファンの心をくすぐるポイントですよね。山形カシオにいる熟練の職人さん達もしっかりしていて信頼できるし、ブランディングを含めて素晴らしいと思います。
ーーありがとうございます! 最後は5000シリーズの中からフルメタルのGMW-B5000D-1JFです。

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堀内:最初に見た瞬間、「G-SHOCKはこんな領域まできたのか」と衝撃を受けました。それから今も憧れ続けている存在の一つです。フルメタルの良さは、これを着けていればTPO的な意味でどこにでも行けるという安心感。これぞ大人の腕時計って感じがしますね。
ーーこのモデルですが、フルメタルという見た目の特徴だけでなく時刻修正システムやスマートフォンリンク、タフソーラーなど様々な機能を搭載しているところも特徴になります。
堀内:タフソーラーのモデルは前々からすごく気になっていました。思うに、G-SHOCKはタフソーラーを備えたことで完成を迎えたんじゃないでしょうか。それほど画期的なアイディアだと僕は思っています。
ーー完成を迎えた、というのもデザイナーならではの視点ですか?
堀内:というより、根っからの時計好きとしての視点ですかね(笑)。ボディーもムーブメントもタフで壊れにくく、デジタルウォッチの電池交換という唯一の懸念点をタフソーラーによって改善したことで、完成度が高まったように感じています。
ーー今回色々とお話をお聞きできて、堀内さんとG-SHOCKの距離がとても近いことが知れました。
堀内:そうですね。僕にとってG-SHOCKは、ワークウェアやミリタリーウェアと同じぐらい慣れ親しんだ存在なんだと思います。丈夫だし、使い込むとさらにかっこよくて、それこそスタイルのあるスケーターが着けているだけで絵になるものというか。これからさらに歳を重ねていっても、いい付き合い方をしていきたいですね。