期間限定レストアサービスの新章 始まる「よみがえれ、初代フロッグマン」
~企画編~
2023年8月29日 公開
”長きにわたってG-SHOCKを愛用してくださるユーザーのためのサービス”として、生誕35周年の2018年に1回目のレストアサービスが始まりました。想定していた以上の大きな反響を得て、2021年10月から翌年1月にかけて2回目、そして2023年の8月からいよいよ3回目がスタート。過去2回の対象モデルはDW-5000やDW-5600でしたが、3回目は初めて初代フロッグマン「DW-6300」が対象となります。このレストアサービスに込めた想いと、企画担当者しか知らないエピソードを聞きました。
レストアの要望が多かった30周年のDW-6300

レストア前の初代フロッグマン。
─G-SHOCK生誕40周年にあたる2023年、レストアサービス第3弾の対象モデルに初代フロッグマンが選ばれた理由から聞かせてください。
「以前、アンケートで今後レストアを希望するG-SHOCKを聞いたことがあります。それで上位に入ったのがDW-6300でした。レストアの要望が多く、お客様に大事にされているモデルですから、ぜひレストア用パーツを提供する機会をつくりたいと考えていました。ちょうど今年は、1993年に誕生した初代フロッグマンの30周年にあたりますし、タイミング的にもベストだったのです」

カシオ計算機 羽村技術センター 開発本部 品質統括部 品質開発室リーダー 難波和哉。入社して18年間は、リペアの現場と新モデル開発部門の間に立ち、双方の情報共有を推進する技術スタッフとして勤務。2018年に品質統括部に異動。以後、レストアサービスに携わる。
唯一残っていた“現品”を3Dスキャン
─通常のリペアに対して、レストアサービスの難しさとは何でしょうか?
「現行モデルは壊れた部品を、今ある部品に交換するのですが、レストアサービスはすでに交換用のパーツの生産も終わってしまって久しいモデルを対象にしています。そのため、初代フロッグマンはパーツの金型がないのはもちろん、ロゴのフォントデータも残っていませんでした。ちなみに現在は、ベゼルやバンドの金型を作り直すにも3Dデータが必須です。初代フロッグマンの時代は、まだ3D-CADが導入されていませんでしたから、紙に描かれた2Dの図面をもとに、3Dデータを作成することから始めなければなりませんでした」
「レストアサービスでは、ただ取り付けられる部品を用意するのではなく、発売当時のかたちに戻すことを目指し、“G-SHOCKならでは”の外観を当時のデザインに可能な限り近づけることにこだわっています。この“外観=見た目”にはパーツの細かい形状が大きく影響します。角の尖り方や文字の書体が少し違うだけで、まったく違う印象になってしまうのです」
「頼りになったのは、“現品”だけです。幸い、DW-6300の美品が1本だけカシオ社内に残っていました。その現品の3Dスキャンと、2D図から3D図のデータ作製を並行して行い、デザイン、嵌合(かんごう)、型割の比較検証を徹底的に行いました。ベゼルの赤い文字(LIGHT,STARTについては、フォントが特殊で現在は使用していないものだったので、これも現物を見ながら、真似るようにしてイラスト化し再現しました」
■下記の検証データの画像は、緑色の箇所が両者の寸法に差のない箇所、赤や青色の箇所は差があるため、内容を吟味し、3Dデータの修正を検討した。
●ベゼル裏のデータ比較

“現品”をスキャンしたデータ。

2Dデータから3Dに起こしたデータ。

2つのデータの差を検証したデータ。
●ベゼル表のデータ比較

“現品”をスキャンしたデータ。

2Dデータから3Dに起こしたデータ。

2つのデータの差を検証したデータ。
●ベゼル表・別角度のデータ比較。

“現品”をスキャンしたデータ。

2Dデータから3Dに起こしたデータ。

2つのデータの差を検証したデータ。
●フォントの作成



既存のフォントは存在しないため、現品からイラストとして起こして再現した
●バンドの最終データ。

最終的な3Dデータ。

“できあがった現品”
「もちろんレストアサービスには、部品メーカーの方々の協力も欠かせません。当時のメーカーがすでに廃業している場合や、材料が入手できなくなっている場合もあります。当時の事を振り返りながら調整いただくなど手間のかかるイレギュラーな仕事内容にもかかわらず、今回も最大限協力してもらった外部メーカーの方々には感謝しかありません」

唯一残っていた“現品”(左)と、交換用ベゼルを組み込んだレストア後(右)。フォントを含めて、可能な限り正確に再現した。
3回目にして初めて本格的な金型を作製
─過去2回のレストアサービスに比べて大変だったことは?
「FrogmanシリーズであるDW-6300は、DW-5000やDW-5600に比べてベゼル形状が複雑です。そのため、どのような手法を用いて部品を作るか、その選定にも苦労しました。
提供価格を抑えるためには、手作業に近い1回目の光成形や、アルミ合金材を用いた2回目の簡易金型にて作りたかったのですが、今回は通常の量産モデルに用いられる鋼材製の金型による製造を選択しました。簡易金型は簡単に説明すると、大きな型枠をベースに、部品の形状部分のみを作った小さい金型をはめ込みます。よって、その範囲内でできることには限界があり、DW-6300のように複雑な形状に加えてネジ穴が深いなどの要素に対応するのは、難易度が高いと判断しました。」

本格的な鋼材を使った金型から作られた、交換用のベゼルとバンド。
─高級時計ブランドでも一部でしか実践されていないレストアサービスをG-SHOCKで行う意義について、どう考えていますか?
「耐衝撃性を備えたG-SHOCKは、もともと1本を長くお使いいただける時計です。実際に長きにわたって愛用いただいている方が多く、ならば、我々も長期メンテナンスでお応えするべきだろう、という考え方がレストアサービスの基本です。これまで、古いモデルは交換パーツがなくなってしまい、修理をお断りせざるをえないという話を聞くたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。まだレストアサービスの対象モデルは限られていますが、少しずつでも広げていければと思っています」
「レストアサービスは最初から利益を度外視して始めた期間限定の企画です。通年サービスの要望をいただくことも多いのですが、採算面だけでなく、熟練したレストア作業員を確保するのも大変です。準備期間も長くなりがちで、3回目に取りかかってすでに1年半、企画段階からは2年かかりました。もちろん、通年サービスに向けての努力は続けていくつもりです」
「大変な仕事であると同時に、やりがいも実感しています。通常、我々の仕事は修理した製品をお戻ししたら、そこで終わってしまうのですが、レストアサービスの場合、その後にお客様からお礼の手紙をいただくことがよくあります。“若い頃に買った時計を捨てられずにずっと持っていた”とか、“亡き親から受け継いだ思い出の時計だった”とか、“また使える日が来るとは思っていなかったのですごくうれしい、大事に使います”とか。こうしたお客様からの声を聞くと、ものすごく励みになります」
「昔ながらのG-SHOCKを修理しながら長く使っている方の中には、1本をずっと愛用していただいている方もいれば、好きなモデルを何本もコレクションしている方もいらっしゃいます。いずれにしても、G-SHOCKのデザインは独特なので、それぞれを本当に気に入ってくださった方が多いと感じています。壊れたので買い替える、ではなく、思い出の詰まったモデルを使い続けたいという思いを、私たちは大切にしていきたい。責任と誇りをもって、こうしたお客様の要望に応えたいと考えています」
Lineup
ラインアップ