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初代フロッグマン“レストア”の最前線「思い出のDW-6300よ、再び!」
~現場編~

2023年8月29日 公開

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3回目となるG-SHOCKの期間限定レストアサービスの対象モデルは、30周年を迎えた初代フロッグマン「DW-6300」。ISO規格に準拠したG-SHOCK初の200m潜水用防水モデルです。5色のカラーバリエーションのうち、今回開発されたレストア用パーツは、1993年8月に発売された最初の1本「DW-6300-1A」の仕様が基準となりました。経年劣化や傷でダメージを負ったモデルがどのようによみがえるのか、レストアの現場を紹介します。

カシオテクノ サービス事業推進部 東日本リペアセンター 多田 稔。リペア歴20年。G-SHOCKレストアサービスは2回目から担当。

G-SHOCKレストアサービスのプロセス

1.外装と機能を点検

「長く使用されてきたG-SHOCKは、1本1本の状態が異なっています。加水分解によってベゼルが欠落したもの、バンドが切れて腕に装着できないもの、様々な状態でお客様から届きます。だから、まず最初に行うのは点検です。経年劣化や傷の状態、各機能が正常に作動するかといった時計の現状を把握します。また、ボタンを押した感触に違和感がないかも確認します」

ベゼルが欠損した個体も数多く届く。液晶表示に欠けはないか、ライトはつくか、実際にボタンを押して、機能しているかをチェックする。

バンドの劣化が激しく、実用に耐えられない状態。古くなると、エッジが丸く擦れて表面に艶が出ている個体も。

「もしこの段階で、修理できない不具合が見つかれば、作業の前にお客様の了解を得ます。例えばガラスにヒビが入って、レストアサービスの防水試験や機能回復が行えないものは、お客様に“こういう状態ですが、どうなさいますか?”と伺っています。場合によっては、レストアサービスとしては対応できませんと、お断りすることもあります。わかりやすいのが、液晶表示が消えていたり、電池交換しても動かない個体。それでも“飾っておきたい”という要望があれば、外観だけでも修理することがあります」

2.裏蓋を開ける

「外装チェックが終わったら、次に裏蓋を開けてレストアの作業に入ります。DW-6300はスクリューバックなので、専用の台座にセットしてオープナーを回すのですが、スムーズに開けられる個体の方がむしろ少ないですね。汚れていたり、錆びていたり、内部のパッキンが経年劣化で溶けて接着剤代わりになっていることもあります。そんなときは中腰になって体重をかけて、壊れないように細心の注意を払いながら作業を行います。開けるのに1時間以上かかることもあります」

時計に傷を付けないよう、台座と時計の間にビニールを挟み、慎重にオープナーを回して裏蓋を開ける。

どんなに裏蓋が開けづらい状況でも、金属表面の錆を取って動きやすくする潤滑スプレーなどは使用しない。もし錆で固着していたのなら、そこからスプレーの液が浸透してしまう可能性があるからだ。

3.分解・掃除

「緩衝材、スペーサー、パッキン、モジュール、電池などを取り出して、それぞれの状態をチェックします。電池の液漏れが見つかればクリーニングしますが、内部損傷が進行していると手遅れの可能性も。プッシュボタンについては、ケース内側から留めているEリングを外してボタンを抜き、曲がっているものは調整しますが、それも無理な場合は交換することに。ただし、DW-6300はボタンを外した状態でないとベゼルの着脱ができないので、ボタンを付けなおすのは新しいベゼルをセットした後になります」

外した部品は紛失しないようパーツボックスの中に。

ガラスや裏蓋のパッキン、ボタンやバンドの取り付け部を中心に、錆や汚れは可能な限り、ブロワーやスティック、ピンセットを使って丁寧に取り除く。

4.電圧チェック

「モジュールに新しい電池を入れる前に、テスターで電圧をチェックします。正常に電流が流れているかを調べ、規定値より下なら合格、上なら不良と判断します。不具合があってもモジュールを修理することはできませんが、お客様に状態をお伝えして、レストアを中止するか継続するかを相談します」

電圧チェック中。ケース内にモジュールが入ったままチェックすることも。

5.側面ネジの補修(必要な場合のみ)

「プッシュボタンの外側にある4つの側面ネジは、ベゼルをケースに固定する重要なパーツです。過去のレストアサービスでは、このネジが折れている事例が全体の十数%発生していました。なかでも一番厳しい状態といえるのが、折れたネジの一部がネジ穴をふさいだまま取れなくなっている状況です。そんなときはドリルで新しいネジ穴を開けなおす作業が必要になります。元のネジ穴は1.2mm径ですが、新たに1.4mm径のネジ穴を切りなおします」

右上が、プッシュボタンの外側にセットされた側面ネジ。

ネジ穴の切り直しのために作製したアジャスターに、フロッグマンのケースを固定して、ドリルで新しいネジ穴を開ける。

「側面のネジ穴の切り直しは、レストアサービスの中でも細心の注意を必要とします。通常のリペアなら新しいケースに交換すればいいのですが、DW-6300にはもう交換用のケースがありませんから、新たに穴を開けるしかないのです。ネジ穴が斜めになったりしないよう、全集中して作業を進めます」

6.パッキン交換(一部は必要な場合のみ)

「防水性能のかなめとなる裏蓋パッキンは全品交換となります。平らに変形していることがあるボタンパッキンや、ガラスパッキンは、必要があれば交換して対応します」

手前が裏蓋のパッキン、上がガラスパッキン、右のボタンパッキンは4本のボタンに2個ずつセットされている。

初代フロッグマンのプッシュボタン。防水性を高めるため、ダブルパッキン構造を採用している。ボタンを押してみて、ぎしぎしと動きが悪いときにはボタンパッキンも交換対象となる。

「ガラスや文字板は、お客様の思い出が詰まっている部品なので基本的には交換しません。古いモデルは文字板の樹脂成分が溶け出して変色していたり、ガラスが曇ったりしている場合がありますので、状態を見ながら判断します。ちなみにDW-6300の強化ガラスは研磨剤などで磨くと、逆にガラスが真っ白になってしまうので注意が必要です」

「ガラスパッキンも状態が悪ければ交換しますが、ガラスははめ込み式の圧入なので、裏側からぎゅっと押さないと外れません。すでに当時の工具が存在しないため、アジャストするための治具を今回新たに3Dプリンターで作りました」

DW-6300のガラス着脱用に新たに作製した治具。サイズや形状の異なる治具を組み合わせて使用する。

ガラスを取り外す際は、受けになる治具の上にケースを乗せ、文字盤の表示窓に合わせて作った別の治具(左)を内側から乗せてセッティング。

ハンドプレスに乗せて上から押し込めば、ガラスが外れる。

これは反対にガラスを取り付けているところ。パッキンを交換したガラスの上から治具を乗せて押し込む。

7.ベゼル、電池の交換

「ベゼル、バンドとバネ棒、側面のネジ、裏蓋パッキン、電池は、レストアに申し込まれたものについては全部交換します。ベゼルは、通常の量産モデルと同様に鋼材による金型を作りました。ベゼル形状が複雑なため、光成形や簡易金型の手法では難しいと判断したためです」

レストア用に新たに作製したベゼル。初代フロッグマンの時代は2Dの設計図から金型メーカーの職人が感覚的に金型を作製していたため、現代の製造現場に必要な3Dデータを得るにさまざまな試行錯誤が必要だった。

8.組み立て・防水検査・歩度検査

「ケースに新しいベゼルを被せた後に、プッシュボタンを取り付け、中にモジュールを収め、緩衝材やスペーサーなどをセットしていきます。モジュールの周囲に金属製のカバーがあり、プッシュボタンにあたるところは切り欠きが入っているので、それを合わせて位置決めします。モジュールはもちろん、緩衝材やスペーサーも、現在ではもう手に入らないパーツばかりなので、傷を付けないよう慎重に扱っています。防水検査を行う前に動作確認と共に時計の精度に異常がないか、歩度検査も行います。
また、防水検査については、エアリークテストによって20気圧防水を確認します。」

モジュールの上に乗せる黒い樹脂パーツは、G-SHOCKの中空構造を完成させるための緩衝材。

最後に、緩衝材の上にメタルのスペーサーをセット。あとは裏のスクリューバックを締めれば本体の作業は終了。

9.バンド取り付け

「肌に接するバンドは経年劣化が進みやすいパーツです。特に加水分解を進行させてしまう一番良くない状況といえるのが、着用して汗が染みこんだまま長く保管すること。普段使いしていれば腕から外したときに乾燥しますし、海で使用したあとに水洗いしておけば長くもたせることができます。もしバンドやバネ棒を紛失してしまった場合でも、これらは全品交換しますので、安心してレストアサービスをご利用ください」

レストアサービスのために製造した交換用バンドとバネ棒。
バンド、遊環と尾錠付き。ケースとの接続部にあたるバネ棒は、汗などで錆びやすいので必ず交換する。

選りすぐりの熟練スタッフを招集

東日本、西日本、九州にあるカシオ製品のリペアセンターのうち、今回のレストアサービスにあたるのは、前回に続いて東日本リペアセンター。松崎センター長をまじえて、チーム体制やレストアの難しさについて聞きました。

カシオテクノ サービス事業推進部 東日本リペアセンター センター長 松崎友紀。リペア歴10年。西日本リペアセンター長を経て、2022年4月より現職。

松崎「レストアサービスのチームには、技術力に優れ、経験値も高いスタッフを集めました。通常のリペア業務と違って交換できないパーツが多く、万が一にも失敗することは許されないため、20年以上の修理経験者を責任者にすえて万全の体制を敷いています。それに古いG-SHOCKは現在のモデルと内部構造や素材がずいぶん違っており、通常のリペアができる技術者でも、当時のモデルをレストアできるとはかぎらないのです。とはいえ、もともと我々は、“人ができない修理を何とか自分で直してやろう”という職人魂的なものをもっています。“壊れたのですが、どうすればいいですか?”と相談されると燃えるタイプが多い。今回のレストアサービスでも、プライドをかけた仕事ぶりに期待しています」

─お客様の思い入れの強い時計に対して、重圧を感じることはありますか?

多田「替えのきかない大切な時計なので、傷をつけないよう細心の注意を払いながらレストアしています。責任が重大な一方で、お客様からお礼の手紙などをいただく頻度が、通常の修理業務より多いため、その点はやりがいにつながっています。コールセンターからお客様からの感謝の声を伝言されたりすると、確実にモチベーションが上がり、業務の励みになっています。私たちの思いがお客様に伝わっているのだと実感いたします」

─通常のリペアより手間がかかりますか?

多田「通常モデルよりも汚れが激しいので、裏蓋を開けるにしてもクリーニングにしても、各作業に時間をかけないといけないですね。側面ネジの穴を開けなおす作業など、通常では行わない工程も多いですし。ただ、私も難しい修理を依頼されると燃えるタイプ。レストアサービスについても、日々、自分の技術を高めていけるよう努めています」

松崎「機械式時計のアンティークと同じように、古いG-SHOCKは手間がかかるというか、手間をかけてあげないといけない存在なのだと思います。今回のレストアサービスで、再び初代フロッグマンの息を吹き返していただきたいと思っています。G-SHOCKは使ってこその時計なので、末永く愛用していくお手伝いをさせていただければ、職人冥利につきます」

レストアサービスを受けたDW-6300は、専用のコレクションボックスに収めてお客様の元へ。使用しないときはボックスごと飾って楽しむこともできる。

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