G-SHOCK Originレストアの現場レポート「大切にしていた1本をもう一度」

レストア後のDW-5600C(一例)。
G-SHOCK生誕35周年の2018年に1回目のレストアサービスが始まりました。その反響は思いのほか大きく、2021年に実施した2回目の終了後も継続のご要望を頂いており、この度再度実施する運びとなりました。ダメージを受けたG-SHOCKがどのようによみがえるのか、ここでレストアの様子を紹介します。
長きにわたりG-SHOCKをご愛用くださる方々のために
現行モデルの修理は壊れた部品を今ある部品に交換できますが、レストアサービスはすでに交換用パーツの生産も終わってしまって久しいモデルを対象にしています。壊れたので買い替える、ではなく、思い出の詰まったモデルを使い続けたいというお客様の思いに寄り添い、責任と誇りをもってその要望に応えていきたいと考えています。その想いの元、G-SHOCKの金型をイチから作りなおすなど、レストアサービスは最初から利益を度外視して始めた企画です。
現場スタッフたちは、替えのきかない大切な時計をお客様から預かる責任の重さと同時に、大きなやりがいも感じています。レストアサービス後にお客様からたびたびお礼の手紙をいただき、“若い頃に買った時計を捨てられずにずっと持っていた”“亡き親から受け継いだ思い出の時計だった”“また使える日が来るとは思っていなかったのですごくうれしい、大事に使います”といった声を励みに、日々、レストア技術を高めています。
5000系レストアサービスのプロセス
1.外装と機能を点検
レストアサービスを担当する「カシオテクノリペアセンター」に届いたお客様のG-SHOCKは、加水分解によってベゼルやバンドが欠落していたり、擦れて傷がついていたり、1本1本の状態が異なります。そのため、最初に行うのが点検です。経年劣化や傷の状態、各機能が正常に作動するかなどの現状を確認し、ボタンを押した感触に違和感がないかもチェックします。

使い込んだ傷は、長期間愛用された証。ただし、ベゼルが欠損した個体も多く、液晶表示に欠けはないか、ライトは点灯するかなども確認します。

ケース側の取付部を確認します。(この個体はバンドに傷みはありますが、固着等はなくケースから外すことが出来ました)
この段階で、もしレストアサービスでは対応できない不具合が見つかった場合には、お客様に連絡を取ってご相談します。例えばガラスが割れておりレストアサービスの防水検査や機能回復が行えないもの、電池を交換しても液晶表示が消えたままの個体など、時計の状態をお伝えして、場合によっては作業を中止することがあります。あるいは「飾っておきたいので作業を続けてほしい」というお客様には、外観だけでも修理することがあります。
2.裏蓋を開ける
次に裏蓋を開ける作業です。今回のレストアサービス対象モデルはスクリューバックなので、専用の台座にセットしてオープナーで回すのですが、傷をつけないように、また内部の状態がわからないため慎重に作業します。スムーズに開けられる個体の方がむしろ少なく、汚れや錆、内部のパッキンが経年劣化で溶けて固着している個体もあります。傷つけないよう力を加減しながら作業すると、開けるのに1時間以上かかることも珍しくありません。

時計に傷を付けないよう、時計とオープナーの間にビニールを挟み、慎重に裏蓋を開けます。
3.分解・掃除
ケース内部のパーツを取り出して、状態をチェックします。電池の液漏れが見つかればクリーニングしますが、内部損傷の進行具合によっては残念ながら手遅れになることも。もちろん汚れや錆は可能な限り丁寧に取り除きます。プッシュボタンは、必要であれば、ケース内側から留めているEリングを外してボタンを抜き、曲がっているものは調整します。

緩衝材、モジュール、電池、プッシュボタンなど、外したパーツは紛失しないようパーツボックスの中に。
4.消費電流チェック
新しい電池に交換する前に、正常に電流が流れているかテスターでチェックします。不具合があってもモジュールを修理することはできませんが、お客様に状態をお伝えして、レストアの中止・継続をご相談します。

テスターで消費電流をチェック中
5.側面ネジの補修(必要な場合のみ)
プッシュボタンの両サイドにある4つの側面ネジは、ベゼルをケースに固定する重要なパーツですが、過去にこのネジが折れている事例が発生していました。もし、折れたネジの一部がネジ穴をふさいだまま取れなくなっていれば、ドリルでそのネジを除去する作業が必要となります。現在の製品であれば、ケースの交換対応も出来ますが、今回の対象モデルには交換用のケースの在庫がないため、新しいネジ溝を切り直しますが、ネジ穴が斜めになったりしないよう、細心の注意を払いながらの作業を行います。

プッシュボタンの外側にセットされた側面ネジ。

ネジ穴補修のために新たに作製したアジャスターに時計をセット

折れた古いネジが残っている場合は、ドリルで新しいネジ溝を切り直します。
6.交換用の部品
防水性能のかなめとなる裏蓋パッキンや、ベゼル、バンドとバネ棒、電池は全品交換です。変形したボタンパッキンも、必要があれば交換して対応します。ガラスはお客様の思い出が詰まった部品ということもあり、そのまま使用します。

左から、ベゼル、側面ネジ、バンドとバネ棒。ベゼルは当初、光成形により作製していたが数に限界がありました。そこで鋼材製の金型を新たに起工。
7.組み立て・歩度検査・防水検査
必要なパーツを交換しながら、組み立て作業を進めます。モジュールを収め、緩衝材やスペーサーなどをセットしていきます。モジュールはもちろん、緩衝材やスペーサーも、現在ではもう手に入らないパーツばかりなので、傷を付けないよう熟練職人が慎重に扱います。動作確認とともに、時計の精度に異常がないか歩度検査を行い、防水検査については、エアリークテストによって確認します。
最後にベゼル、バンドを取り付けます。
経年劣化等によりバンドやばね棒を紛失してしまった場合でも、これらは新たに取り付けますので、安心してレストアサービスをご利用ください。

組み立て作業中。ピンセットでモジュールの上に乗せている黒い樹脂パーツは、電池がズレないよう設置するスペーサーです。

レストアサービスを受けたG-SHOCKは専用オリジナルパッケージに収めてお客様のもとへ。時計を使用しないときはオリジナルパッケージに収めて飾って楽しむことができます。