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The Pillars of Protection

現代アートとFROGMANが交差する、それぞれの時間

Making Art with MR-G

現代アートとFROGMANが交差する、それぞれの時間

初代G-SHOCKから現在まで連なる「タフネス」のスピリットを守りながら、日本のものづくりに息づく繊細な美意識と、カシオの最先端技術を融合させた「MR-G」。

「美しいものは壊れやすく、タフなものは美しくない」という矛盾する概念を両立させる MR-Gに、現代アーティストたちはどのようなインスピレーションを受けるのでしょうか。

「Making Art with MR-G」では時計と融合したアート作品を制作。表現者たちはMR-Gに込められた哲学を、それぞれの創造力を駆使してかたちにしていきます。

第二弾は、平面と立体の枠を超えた技法で粒子の感触を確かめるように、人間と物質の関係の再考を試み、人・生物・環境などが一体性をもった自然観をテーマにした作品を生み出すアーティストの高山夏希氏。MR-Gのダイバーズウオッチ FROGMANの「MRG-BF1000R-1AJR」を手渡しました。

Myriad

人間本来の「見る」を取り戻す、高山夏希のアート

《Thustt 04》(detail) Photo/Minamoto Tadayuki 《Thustt 04》(detail) Photo/Minamoto Tadayuki

平面を構成するのは、波打つ水面のうねりのような複雑で繊細な動き。絵に近づいてみると、粒子状の絵の具が積み重ねられた立体的な表情が見えてきます。作者の高山夏希氏は見ることで、絵に触れているような感覚になれる作品を目指して制作する現代アーティストです。

「今や、情報や産業の技術の発達によって、遠くの世界のことを知る事ができたり、記号化されたものの結びつきは強まりました。しかし、他方で記号化未満の事物への感性は弱まってしまうのではないだろうかと感じています。たとえば、どこかの海を調べた時、画像を見ることができるかもしれませんが、それは情報を見ているということに過ぎません。生き物としての『人間』にとっての本当の意味での『見る』とは何か。鑑賞することで何かと出会い直す感覚になれる作品ができないかと考えています」

《Thustt 04》Photo/Minamoto Tadayuki 《Thustt 04》Photo/Minamoto Tadayuki

これらの繊細な絵は注射器に複数の絵の具を入れて絞り出し、時にはカッターや彫刻刀で削るという独自の手法が用いられています。その背景には既製品の絵の具と筆で描くという行為への違和感と、制作する上で大切にしている想いがありました。

「たとえば今、目の前に黒い絵の具があったとして、これは固有色でいえば黒です。ですが、私たちが肉眼で見ている色は、自然の中にある光源や、様々な事物の色彩が影響しあって見えています。ですから、ただそれを黒い色で塗ったり、混色して再現するのでは不十分だと感じます。私たちが普段見ている色の響き合いを、ミクロな起伏で複数の色が同時に見えるような表現として模索し、現在の手法に辿り着きました。

私自身も、作品を制作する中で、物との繋がりの感じ取り(=実感)を大切にしてます。絵具が現す表情が、次に私の成すべき一手を導いてくれるように、制作の中に働いているのも、自分自身の力だけではありません。私と物質のあいだに確かに感じられるにもかかわらず、見ることができないものもあります。 人間、生物を含めた全ての物体が原子の集合体であるように、細胞や分子レベルから見た小さな小さな世界が存在しています。私の画面の絵具たちは、固まる前に、複数色の細かい粒子と粒子が流動して絡まりあっています。自分の体の内側にある意識と、外側からどんな感じ取りを受けて変化してきたか、その双方が一体となるようにして自分の表現が生まれていったように感じます」

《tangled strata from which roots grow》 2000×2515mm acrylic and oil on canvas 2023 Photo/Minamoto Tadayuki 《tangled strata from which roots grow》 2000×2515mm acrylic and oil on canvas 2023 Photo/Minamoto Tadayuki

こうした作品制作を行う高山氏のイマジネーションの源泉には、幼い頃から親しんだ「自然の風景」があります。

「幼少期より、母親の実家がある山口県の岩国へ、休みの度に行っていました。山々に囲まれて川が流れていて、猪がいたり、見上げれば猿がいるような自然豊かな環境でした。今も作品を作る時は山に行ったり、海の岩場を観察したり、旅先で鉱物を集めたり。やっぱり自然が一番の先生なんです。

一方で都市における現代社会の人間の生、孤独や居場所、情報化による実体への感性の希薄化など、私たちがそれぞれに現実に抱えている切実な問題があります。不安定な人間社会では、居場所を確保するのも容易ではないけれど、『居場所』をもっと広義に考えることができないだろうかと考えています。里山が人を含む多様な生物の居場所になるように、自然や事物は人間とは異なるタイムスケールでそこに在り続けることによって、オルタナティブな居場所となりうるのではないかと考えています。作品や展示空間が、ある誰かの『居場所』となるような、そのような可能性に賭けて制作をしています」

アトリエ
《World of entanglement 2020》 4000 × 2500mm, acrylic and oil and yarn on canvas 2020年 Photo/Minamoto Tadayuki 《World of entanglement 2020》 4000 × 2500mm, acrylic and oil and yarn on canvas 2020年 Photo/Minamoto Tadayuki
NatsukiTakayama

高山夏希 Natsuki Takayama

1990年東京都生まれ。 2016年東京造形大学大学院造形研究科美術専攻領域修了。
複数の色同士が絡まりあった絵の具を盛り上げ、積層して削るなど、平面 / 立体の枠を超えた技法を用いて作品を表現している。
主な展覧会は、2024年 の『推力の鳴く弧の此方』(WALL_shinjuku(ルミネ新宿)/東京) 、『⻘い火』(EUKARYOTE/東京) 、『堆く、石走りて』(rin art association/群馬) 、2023年の『気色の目』(奈義町現代美術館/岡山) 、2022年の『black view』(IDEE TOKYO/東京)、『空を泳ぐ鳥は火を灯す』(NADiff a/p/a/r/t/東京)2020年の『VOCA展2020 現代美術の野望 -新しい平面の作家たち- 』(上野の森美術館/東京)など。

海の中の時間に、思いを馳せて

FROGMANは、「潜水作業員」を意味し、海の中で見る時計として設計された。「ダイバーズモード」を起動すると、通常の時刻表示は8時位置のインダイアルに移り、メインのダイアルには潜水時間が大きく表示される FROGMANは、「潜水作業員」を意味し、海の中で見る時計として設計された。「ダイバーズモード」を起動すると、通常の時刻表示は8時位置のインダイアルに移り、メインのダイアルには潜水時間が大きく表示される

高山氏が「MRG-BF1000R-1AJR」を手にした時、ダイアルと針の多さに驚かされたと言います。

「陸で生活をすることを常とする人間にとっては、FROGMANが刻む海の中の時間は、日常とは異質な『生きられる時間』とも考えられます。初めて時計を目にした時に、複数の時間がダイアルの上で同居していることに注目しました。それと同時に、海中の時間と、普段日常で刻んでいる時間に関心が湧きました」

この時計に触れた体験をきっかけに、高山 氏の創作のイメージは広がっていきました。そして実際に山形カシオを訪れ、製造現場の空気に触れたことで、作品の構想はさらに深まっていきます。

現場で目にした技術の中でも、彼女が特に心を奪われたのが、MR-Gの製造を支える「ナノ加工技術」。部品の成形に不可欠な金型を、ナノ(1メートルの10億分の1)レベルで加工することで、樹脂をシャープな金属のような風合いにすることを可能にした山形カシオが誇る金属加工技術の一つです。

「見たことのない新しい物質に出合ったような感じです。自然の中で耐えうる機能性を強固にしつつも、代替品を使うのではなく新たに作り出すという執念に惹かれました。それは、自然の中で変化を繰り返している鉱物にも近いように感じます。私が集めている鉱石の一つのマラカイトは、銅鉱石が大気中の二酸化炭素や地下水の作用によって風化して、銅化合物が濃集して形成されるなど自然の作用で生まれるものですが、その土地の環境や関わり合う物同士が一体となって新しい物質を作り出します」

高山氏が収集している鉱石や流木、動物の骨などのコレクション。中央で輝くのがマラカイト 高山氏が収集している鉱石や流木、動物の骨などのコレクション。中央で輝くのがマラカイト

「それと同じように、人の技術と素材の持つ特性が合わさりながら新しいマテリアルを生み出しているように見えたんです。時計は金属じゃなきゃいけないという既成概念に縛られない、もっとポジティブな働きがあると思います。私も、『こうじゃなきゃいけない』という価値観を一度手放して、新しい物を取り入れてみたくなりました」

「私の作品に《water mirror》というシリーズの作品があります。水面鏡のようなイメージがもとにあり、水がピンと張ったような画面と、水の媒質の中で見えないものを含めた様々なものが内包されているように表現したいと考えて制作をしました。実際には、樹脂と絵具と支持体のみなのですが、自分の思考や過程のプロセス、その素材となる物質が相互に作用した時に、その素材が新しい姿を見せてくれるような事があります」(高山)Photo/Minamoto Tadayuki 「私の作品に《water mirror》というシリーズの作品があります。水面鏡のようなイメージがもとにあり、水がピンと張ったような画面と、水の媒質の中で見えないものを含めた様々なものが内包されているように表現したいと考えて制作をしました。実際には、樹脂と絵具と支持体のみなのですが、自分の思考や過程のプロセス、その素材となる物質が相互に作用した時に、その素材が新しい姿を見せてくれるような事があります」(高山)Photo/Minamoto Tadayuki

時計の素材の声を聞きながら、時計と一緒に作っていく感覚

佇まいに歴史を感じさせる高山氏のアトリエは、かつて「池袋モンパルナス」と呼ばれて芸術家や詩人、小説家が集っていたエリアで画家の藤本東一良(1913-1998)が晩年まで使用していたという 佇まいに歴史を感じさせる高山氏のアトリエは、かつて「池袋モンパルナス」と呼ばれて芸術家や詩人、小説家が集っていたエリアで画家の藤本東一良(1913-1998)が晩年まで使用していたという

山形カシオを訪れてから約3ヶ月。天窓から自然光が差し込む高山 氏のアトリエを訪ねると、そこには制作途中の作品が置かれていました。荒々しい造形は、彫刻のようでもあり、どこか太古から脈々と育まれた自然物を思わせる有機的な形をしています。

「G-SHOCKシリーズが掲げている『タフ』という言葉には“頑丈”という意味がありますが、私はそれを『野生』として捉えたんです。FROGMANなら、水中の時間を計測しながら、水圧に耐え、なおかつ水の中で動く行為に順応する。そうした配慮が隅々に行き届いていて、『野生として生きる人間の時間』を指し示す時計だと感じました。その『野生』を表現しつつ、私たちの周囲に存在するさまざまなものとの関係や、海の中の時間、あるいは無数にある時間のありようを、重ね合わせるような作品が作れたらと考えたんです」

初期のラフスケッチ。当初は自然物で作品を作ることを検討していた 初期のラフスケッチ。当初は自然物で作品を作ることを検討していた
sketch

ごつごつとした質感を持つ台座は「自然風景をイメージしながら彫刻を進めた」と高山氏は語ります。

「旅先で見た岩場や自然の持つ時間を表現してみようと思ったんです。当初は石や流木を使うことも考えましたが、山形カシオの『ナノ加工技術』によって仕上げられた素材を見た経験から、自分で素材自体を作ることに挑戦してみたくなりました。積み上げたベニヤに対して、岩場で海の波が侵食して削られた地層の形のように、イメージを重ね合わせました。主観を捨て、自分自身が海の波になりかわるように、そんなイメージを持ちながら、どこまで自分を捨てて形を作れるかの勝負でしたね」

sketch

完成した台座のまわりには、時計に使用されているのと同じ規格で円形にカットされた木片やMR-Gに使用されているサファイアガラスが置かれています。

「サファイアガラスを手にした時、そのクリアさ、光を通す透明感に驚かされました。それに、レンズとしての効果もあるので、その特性を活かして制作したいと考えました。今回は『時計と一緒に作品を作っている』という感覚があって。時計があって、レンズの技術があって、それらと私が一緒になって制作しているような。自分が一方的に手を加えるというよりも、物の声を聞きながら、一緒に手を動かしている感じなんです」

写真一枚目:制作に用いられたサファイアガラス 写真二枚目:サファイアガラスのレンズになるという特性を利用して着彩を検討 写真三枚目:注射器を用いて絵の具を乗せていくと有機物のように見えてくる 写真四枚目:MR-Gに使用されている素材「コバリオン」の加工時に生まれる粉末で着彩を試みる

サファイアガラスは、その特性を活かして無加工のまま使うものもあれば、着彩して使用されるものもあるのだとか。それぞれには、高山氏がこれまでに出会ってきた自然の風景が描かれていきます。

アトリエ
アトリエ

さまざまな時間が混在している世界を表現

Myriad

再び高山氏のアトリエに訪れてみると、作品は完成していました。野生の時間を刻むような台座と、異なる場所へ誘う無数の円盤。それらが呼応しながら、見る者にさまざまな『時間』のあり方を想起させてくれます。高山氏は制作中にこんなことを語っていました。

「時間は一定に動いているようでも、環境や状況によって感じ取り方が異なる事は誰しもあると思います。たとえば海を見ながら浜を眺めて歩いていると、いつの間にか何キロも歩いてしまっていて、同じ道を戻る時には長く感じて時間の感覚の違いを感じることがあります。

作品制作をしている時に、絵具や別の物質との対話を交わして、自分自身の身体を通じて別の性質を持つなにかと関わる瞬間というのは、普段とはまた違った時間が流れます。手を止めてふと、時計を見た時に、もうこんなに時間が経ったのかと思ったり、あまりにも時計の針の進んでいなさに驚くことがあります。自分というよりも、手の先にある物質の持つ時間性が基準となり、その時間を生きているような感覚です。

G-SHOCKの時計は、その多種多様な生き方に応じた特異な時間を私たちに指し示してくれているように感じました」

sketch
Myriad

彫刻された木材の表面には、着彩が施されており、より有機的で自然物のような風合いを出しています。この制作の過程においても「時間への気づきがありました」と高山氏。

「塗料が深く染み込み過ぎてしまい、その分の厚みを全て削り、再度色を入れました。合板はもともと複数の種類の木が重なっているので、木の柔らかさや硬さによって、色の浸透率が変わります。削ることで、柔らかな木の層に深く入り込んだ色が残り、一層のみを塗っただけでは作れない色幅が生まれました。失敗を経た結果、その時間は戻ることも消えることもなく持続して、新しい自分の想像を超えたものとなりました。前後に行ったり来たりを繰り返しながら、しかし過程があったからこそ生まれる表情があります。

現代において時間は、効率化が進む生活の中で、短縮することが価値となってしまっているように思います。個としての時間が重視される現実は、周囲を取り巻くものへの実感や関わり、現実への意識が薄れる危険性をはらんでいると感じています。しかし、こうした中で、個や人間としてだけではなく複雑に存在する私たちの周囲にある様々な事物の時間を共有することは、このような薄まる現実や孤独を包み込み、現実感を私たちに留める働きを持ちうるのではないでしょうか」

作品の中で時を刻むFROGMAN。その盤面と同じスケールのサファイアガラスも、彫刻の表情もまた、それぞれの時間を表現しています。それはまるで、人の世界をゆっくりと包み込むようにも見えてきます。

複数の時間から見える景色

《Myriad》サファイアガラス、木、アクリル絵具、樹脂、桐油 《Myriad》サファイアガラス、木、アクリル絵具、樹脂、桐油

「サファイアガラスの円形が直交に合わさっている部分は複数の時間が連動する様を表現しています。私たちの周囲に存在する時間や、時間の内側にあるものに意識を働かせた時に、見える現実世界はどのような色に見えるのでしょうか」(高山夏希)

MRG-BF1000B
チタン装甲を纏った、海のMR-G。

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