時を超える、タフという価値
長い時間をかけて美しく鍛え上げられた日本の絶景や歴史的建造物を通して、「究極のタフネス」というコンセプトで、時計の世界で独自の、しかも不動のポジションを確立しているG-SHOCKの最高峰「MR-G」の魅力を紐解く。
第二回は、山形の地に息づく「青」の力と、その特別な魅力を追求する。
MRG-B5000が描く湧水と清流の世界
青が秘める「静けさ」と「深遠な力」
By 後藤繁雄
悠久たる時を経た自然が人を、そして物語を作る。名作『月山』『鳥海山』や『われ逝くもののごとく』を著した芥川賞作家・森敦の小説を読んだ者は皆、なおのこと強くそう共感することだろう。山形の北辺、秋田との境に聳える鳥海山のエリアは、森敦だけではなく多くの人々が特別な気配を感じる場所に違いない。
その鳥海山は、近年は静穏な状態にあるが、今も活火山であり、古来より荒ぶる火の山、霊峰として人々に奉られてきたのである。山自体が神体山であり、大物忌神として崇められてきたのだ。

【牛渡川】牛渡川は、岩の隙間や割れ目から湧き出す鳥海山の伏流水をほぼ100%水源とする、静かで澄んだ全長4kmほどの小さな川。
しかしその山が、豊かな伏流水をその地下に蓄え、自噴する多くの泉や川を生み出したことは、宇宙のミラクルな計いとしか言いようがないだろう。遊佐町北部を水源とする牛渡川は、驚くほどの透明度を持ち、誰もが本当の「清らかさ」とはこのようなものだと、実感することだろう。
また、遊佐町の大物忌神社の近くには、丸池様と名づけられた特別な池がある。こんこんと湧き出る水は、陽の光の中でエメラルドグリーンや青に色を変化させる。ここは、聖なる地として、絶対の禁足の場所として大切に扱われてきたのだ。


【牛渡川】湧水が静かに湧き出る岩間と澄みきった水にだけ自生する梅花藻。流れに揺れる繊細な姿が牛渡川の清らかさを物語っている。
しかし考えてみよう。物理的にはどこにでもある水が、特別なものとして遥拝されるとはどういうことなのか。ものがものであることを超えて、特別な力をおびるとはどのような計いなのだろうか?そんな問いが浮かぶ。そこには、ものとひとの間の強い感応がある。
だからこそ、山形の地にカシオのG-SHOCK製造の拠点がおかれ、人と自然が織りなす豊かな風土の中でものづくりが営まれていることが、深い縁でつながっているのだなと実感できるのである。
例えば、丸池様の水の青色のことがある。青は、古今東西において、神聖な色として扱われてきた。ヨーロッパでは宗教画や、中近東のモザイクにおいても天上の色として使われてきたし、日本においても平家納経の紺紙金泥は、精神的な美の最高位を示すものだった。

【丸池様】透き通る青い湖面が広がる丸池様。鳥海山の伏流水が湧き出し、透明度の高い水がその神秘的な輝きを生み出している。
その一方では、禅の境地に繋がる「青墨」という、黒の奥に青を潜ませる美も存在する。東洋の書家や画家の魂をとらえてきたのだ。
この山形で作られているG-SHOCKの最上級ラインである「MR-G」のMRG-B5000が、そのものづくりにおいて、「青墨」の境地を範にしていると知った時、驚くと同時に腑に落ちるものがあった。この時を刻むタフな時計が、黒に近い青の特別な力にこだわってつくられたということに。


【丸池様】湧水のため年間通して11°と水温も冷たく、また常に水が入れ替わることから沈んでいる樹木がなかなか朽ちないという。
色はものとひとを繋ぎ、力を与える。夜明けや日没に現われる濃い青のグラデーションは、人を宇宙に導く。古人たちが青墨に見た宇宙に誘う力である。
青の光、その色は精神の働きと繋がる。大哲学者ゲーテは、『色彩論』を著し、多くの芸術家にインスピレーションを与えたが、彼は「色は光の行為だ」と説き、さらにこう書き表している。
「光と精神。自然界における光と、人間界における精神は、ともに至高にして細分化しえないエネルギーである」と。
移り変わりの早い時代のなかで、ものが大量消費物と化してしまい。特別な力を失ったかのように思うが、そんな考えは単純過ぎる。
ものとひとの感応は、ゲーテが説くように細分化できないエネルギーだ。だから時代が移ろっても、簡単には滅びないものが生まれる。
ひとは、力を帯びた特別なものから学び続け、時を超えることを知るだろう。清らかな水は透明な青でも、そこには荒ぶるエネルギーが潜んでいる。静かであり、かつ強さを持つダイナミズムを授ける。水は時を超えるための秘密を教える。
MRG-B5000は、そのようなものづくりの精華である。執拗な金属素材の探究や丹念な仕上げ。一つの時計のベゼルとアウターケースが、一体成形ではなく、25個の部品からなることを知った時、だれもが唸る。なおかつ、それは、純チタンの約4倍の硬度を有し、プラチナと同等の輝きを持つといわれる「COBARION(コバリオン)」と、64チタンが使われているのだから。サファイアガラスにはブルー蒸着を施して、青の光にこだわり続ける。ものづくりのアプローチの細部に究極への希求がある。
一個の時計の中に、ものの本質を静かに突き詰める精神のエネルギーを結晶させる。それを「魂が宿ったもの」と呼んでも間違いあるまい。
特別な力を帯びた逸品を腕に装着すること。それは、時空をこえる喜びと力を与えることになるだろう。
MRG-B5000BA
革新の技と青墨の美が響き合う
日本の精神を宿すタイムピース
後藤繁雄 Shigeo Goto
大阪府生まれ。編集者/クリエイティブディレクター。京都芸術大学教授。80年代より編集者、アートプロデューサーとして時代に一石を投じる数々の企画に携わり、古美術から最先端の現代アートにいたるまで、幅広い活動を行ってきた。なかでもアーティストの才能の発掘・育成には並ぶ者がないほどに精通し、現代の目利きの一人としての定評が高い。主な著書に、『独特老人』(ちくま文庫)、『skmt』(坂本龍一との共著、ちくま文庫)、『超写真論』(篠山紀信との共著、小学館)。最新刊に『現代写真とは何だろう』(ちくま新書)がある。